残すか、残らないか(3)

治療方針は3つあります。

①抜歯

②再度、根管治療をおこなう

③歯根端切除を行う

①と②はよくわかると思うので、③について少し説明します。③は、外科的に、問題の病巣をとるという方法です。具体的には、粘膜を切って、問題の歯の歯根部分を露出させます。そこには、症状をおこさせた根尖病巣(多くは、肉のような肉芽組織。CT写真で赤くかこまれた部分)があるはずです。それをとるという処置です。

 

Aさんが、私ではない他の先生を受診したとしたら。その先生はAさんからの症状を聞いて、必ずレントゲン写真をとるでしょう。そして、ほとんどの先生は②の再治療を試みると思います。理由は、前述したように、レントゲンに写ってくる根尖病巣が小さく症状もそれほどでもないと判断するからです。

 

その結果症状も消え、きれいなメタルボンドを再度いれて、めでたしめでたしとなれば大変ラッキーなことでしょう。

 

しかしながら、CTでわかるように、病巣は歯の裏側にひろがっていました。ということはその原因となった根管が曲がっていたり、側枝をもっているのではないかと疑われるわけです。

要するに通常の根管治療をやり直しても、症状が出てくる確率は高いと思われます。治療後最初のうちは調子が良かったとしても、そのうち症状が出てくるのではないでしょうか。

そうなると次なる手段は③の歯根端切除が行われます。しかしながら、この方法も病巣の大部分が、歯の裏にある以上、完全にとりきることは難しいのではないでしょうか。完全にとりきるには、歯根部分の先端から半分ほど除去して、裏側が良く見えるようにして病巣をとればとれるかもしれませんが、歯根を半分もとってしまったら、歯は動くようになり使い物にならないかも知れません。

しかも、歯根を半分もとっても病巣を完全にとろうという判断は、病巣が歯の裏側にひろがっているという認識がなければ、とてもそのような大胆な選択はできないでしょう。つまり、③を行ったとしても、通常どおり、根の先端部をわずかにカットして掻把することになり中途半端に終わりがちであり、早晩、症状がでてくるのではと心配されます。

また、再治療を終えたAさんからしてみれば、治ったと思っていたのに再び症状が出たとなれば、落胆は大きく、先生が、③という治療方法があると説明したとしても、受け入れてくれるか、はなはだ疑問です。

これまで通院した回数と治療費が、良好な関係を築こうしてきたAさんと先生の努力が水泡に帰し、先生はやぶ歯医者のそしりを受けることになるわけです。

 

 

 

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