抜くか、治療できるかの境界は?

この歯を抜かないで治療できるかどうかの境界は、いったいどこにあるのだろうか?

当然ながら、治療する先生の技量によるでしょう。

どんな世界でもピンキリなのは、誰でも経験からわかっている。都会に住む患者さんで、そのことがわかっていない方はいないだろう。制度は、全国画一的にできても、実際行う人まで、「金太郎あめ」にすることはできない。

医療技術が他者より優れていることを宣伝することは、医療法で厳しく禁じられている。罰則規定すらある。その理由は、優秀性を評価する方法がないからだ。誇大宣伝で、国民を迷わせてはならないというわけだ。

私の所に来る患者さんは、たいてい多くの知識を仕入れて来院する。仕入先は、自身の経験と、ネットでの知識だ。「ネットにこう書いてあった」が選抜の基準となっている。「先生のところでは、○○をやっているか?」パソコンや車の仕様書を見るように、「これがついている、これがついていない。オプションになるのか、コスパは」と考えているのだろう。

残念なことに、こうした人の多くは、「ことば」を追いかけでいるだけで、文脈のなかに言葉が配置されているとは考えていないようだ。「ことば」だけでは知識にならない。文脈のただしさこそが、言葉の意味を担保している。ネット好きの人々は、文脈自体が間違いかも知れないと、疑念を抱かないのだ。こうして「ことば」の知識に、裏切られる。

 

理屈はさておき、症例を見ていただきましょう。

20代の男性。治療途中のまま放置したそうです。最近になり、某歯科を受診すると、「もう無理、抜くしかない」と言われ、私のクリニックに来院しました。

上顎左側第一大臼歯です。残っている歯質もずいぶん黒ずんでいます。つめものは、前医が行ったものでしょう。見た目にはそれほど崩壊していないように見えます。CT写真を見てみましょう。

一瞥して、歯性上顎洞炎と診断しました。

歯性上顎洞炎というのは、歯が原因で、上顎洞炎をおこしているものを言います(矢印で示しているように、上顎洞粘膜が炎症によって厚く肥厚しています)。原因歯は、明らかに、この問題の歯です。慢性で経過していたのか、症状はほとんどないようです。

歯性上顎洞炎の原因歯は、抜歯が基本です。

教科書では抜歯ですが、気がかりなのは、抜歯後の歯槽骨が極端に薄くなるのではないかということでした。薄い歯槽骨には、サイナスリフトという付加的手術を行いインプラント手術を成功させることができます。しかし、この症例の場合、それもどうでしょうか。確実なインプラント手術をするのなら、ブロックとしての骨移植がいいのではと思いました。

ですから、どうしても、根管治療が成功する必要があるわけです。

治療開始です。歯のなかのつめものをとると、綿栓がありました。それをゆっくりととると、出血してきました。マイクロで写真をとります。

歯の髄腔底(ボーデン)が破れています。つまり、歯の内部と歯の外側(骨組織)とが交通しているのです。このくらいの大きさなら、これだけでも抜歯の適応だと思います。

なるほど、前医が治療できないと言った理由が理解できました。歯性上顎洞炎だからではなく、穿孔のためだったわけです。これを何とかしない限り、この先の治療はできません。大きな障害が立ちはだかっていました。

レーザーで止血し、修正補強しました。

根管治療を終え、クラウンをかぶせました。勿論症状なくかめています。

終了時のCT写真を見てください。

上顎洞の炎症も治っています。粘膜の肥厚はありません。根尖の閉鎖がうまくいったものと考えます。

できるだけこの状態が長く続くことを希望してやみません。

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