抜くか、治療できるかの境界は?

この歯を抜かないで治療できるかどうかの境界は、いったいどこにあるのだろうか?

当然ながら、治療する先生の技量によるでしょう。

どんな世界でもピンキリなのは、誰でも経験からわかっている。では、ピンとキリとは何が違うのだろうか?そして、どこを見れば判定できるのだろうか?

飲食なら、食べてみればわかる。学校なら、卒業生をみれば見当はつく。ところが、終了してみないとわからないもの、それどころか終了してから年月がたたないと、独断であれ判定できないものがやっかいだ。歯科治療はそれにあたる。

そうであれ、どの領域にも、ピンとキリとには明らかな違いがあるように思う。

例えば、名だたる一流選手たちが、成功の要因として判で押したように「精神論」具体的には「自己規制論」をぶち上げる。超人的な肉体的能力や技術などを誇示することはまずない。大袈裟に言うなら、ひたすら仕事に対する「哲学」をとくのである。世の中にある、あるとあらゆる技術は、恐らくそのようなものにいよって支えられているように思う。つまり、目に見える認知できるものは、目に見えないものによって決定されているということだろうか。

歯医者が歯医者として、どのようなモチベーションによって日々治療行為をおこなっているのか、そのことが、「治療技術」と相関しているように思います。設備や経歴、学歴にはあまり相関していないように思います。

①仕事以外のことが「主」となっているひと

②すべてが「常識」の範囲内であることに執着するひと

③労力と利益の最適化を重視するひと

④承認欲求のかたまりと化したひと

⑤仕事に「人としての価値」を見出したいと思う人

理屈はさておき、症例を見ていただきましょう。

結論から言いますと、たまたまうまくいっただけかもしれません。しかし、はじめから、あきらめてしまったのでは「たまたまの成功」にもありつけないと思っています。

20代の男性。治療途中のまま放置したそうです。最近になり、某歯科を受診すると、「もう無理、抜くしかない」と言われ、私のクリニックに来院しました。

上顎左側第一大臼歯です。残っている歯質もずいぶん黒ずんでいます。つめものは、前医が行ったものでしょう。見た目にはそれほど崩壊していないように見えます。CT写真を見てみましょう。

一瞥して、歯性上顎洞炎と診断しました。

歯性上顎洞炎というのは、歯が原因で、上顎洞炎をおこしているものを言います(矢印で示しているように、上顎洞粘膜が炎症によって厚く肥厚しています)。原因歯は、明らかに、この問題の歯です。慢性で経過していたのか、症状はほとんどないようです。

歯性上顎洞炎の原因歯は、抜歯が基本です。

教科書では抜歯ですが、気がかりなのは、抜歯後のことです。

抜いた部位に歯をつくる方法は3種類あります。

①入れ歯をつくる

②ブリッジ

③インプラント

①の入れ歯は「一本義歯」といわれるものです。保険治療なら安くていいのですが、「肉のうえに浮かんでいる歯」にすぎないので、歯があるというだけで、本当に咬めば、入れ歯を支えている粘膜が痛くてしょうがないでしょう。痛くないようにするには、咬んでも下の歯とあたらないようにすれば良いだけです。それでも異物感がハンパナイでしょう。

②は100年以上も前からある治療法です。当クリニックなら、セラミックジルコニアで作られることをおすすめします。問題点は一本の歯を作るのに、ご自分の2本の歯が必要ということです。つまり2本の歯に3本分の力がずーとかかるということです。このことは、支えている2本の歯の余命を短くすることになります、が、歯がない弊害よりはるかにましだと考えるためです。

③インプラントは、顎の骨のなかに埋入します。このケースの場合、抜歯後、インプラントをささえるべき「骨」はありません。「上顎洞」という空洞があるだけです。そこで、この空洞のなかに「骨移植」を行ないます。空洞内に突出したインプラント体を移植骨でおおう、包埋する「サイナスリフト」というインプラント手術でも難易度の高い手術を行う必要があります。ただし、このケースは上顎洞の幅が大きいので、このサイナスリフトでもあぶなくて、一定量のブロック体の骨体移植が良いのでは考えられます。

20代の若者に通常より複雑なインプラント治療費はたぶん「高額」でしょう。また、ブリッジ治療ならいつでもできるわけですから、残存歯を守るためにもやはりこの歯の「根管治療」を試してみるべきだと思いました。

ですから、どうしても、根管治療が成功する必要があるわけです。

治療開始です。歯のなかのつめものをとると、綿栓がありました。それをゆっくりととると、出血してきました。マイクロで写真をとります。

歯の髄腔底(ボーデン)が破れています。つまり、歯の内部と歯の外側(骨組織)とが交通しているのです。このくらいの大きさなら、これだけでも抜歯の適応だと思います。この大きな穴はどうしてできたのでしょうか。自然にできたのでしょうか?勿論、誰かが破ったためです。

なるほど、前医が治療できないと言った理由が理解できました。歯性上顎洞炎だからではなく、穿孔のためだったわけです。これを何とかしない限り、この先の治療はできません。大きな障害が立ちはだかっていました。

レーザーで止血し、修正補強しました。

根管治療を終え、クラウンをかぶせました。勿論症状なくかめています。

終了時のCT写真を見てください。

上顎洞の炎症も治っています。粘膜の肥厚はありません。根尖の閉鎖がうまくいったものと考えます。

できるだけこの状態が長く続くことを希望してやみません。

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